おしごとは呼吸すること

2017.09.10

2017年11月22日(水) 座・高円寺2

オイリュトミー公演 『おしごとは呼吸すること』

人間は1分間にほぼ18回の呼吸をする

一日は4分間の360倍 25,920回の呼吸のプロセス

私たちが行う360回の眠りと目覚めの繰り返し

構成・演出:野口泉 オイリュトミー: 野口泉 三上周子 清水靖恵

公演サイト  

 

 

私の父は「悪性胸膜中皮腫」という病気で亡くなりました。2014年のことです。この病気は、アスベストを吸い込むことにより、肺を包んでいる膜に腫瘍ができるというものです。アスベストを吸入してから発症までに10年~40年を要するため「静かな時限爆弾」と呼ばれています。この病気には、今のところ確実な治療法がなく、発症後の余命は平均2年とされています。

父は1960年頃から電気設備工事の仕事を始め、1975年あたりのアスベスト使用量がピークの頃に作業現場にてアスベストを吸い込んでいたと思われます。

発症したのは2012年ですので約40年が経っています。アスベストにより肉親を失うという経験がなければ、私にとってアスベスト問題とは他人事だったとことでしょう。できれば他人事のままであって欲しかったという思いもあります。

しかしこれも何かの縁かもしれません。アスベスト禍に直面せざるを得ない方々が今後、増えてくるであろうことは否定できません。私の経験を語ることが何かしらの力になれるかもしれない。そんな思いが当サイトの立ち上げにつながりました。そして私が「オイリュトミー」という表現芸術を専門としていることから「アスベスト問題と芸術表現」を結びつけた活動としての側面からアスベスト問題に肉薄していく、という方向に重点が移ってきました。

当初はアスベスト問題の最新情報を追っていくポータル的なサイトの構築を強くイメージしていました。しかしジャーナリストの方々や、「中皮腫・じん肺・アスベストセンター」、全国にある「中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会」などの精力的な活動とその成果を見ると、あらためて「自分がすべきことは何だろうか?」という疑問が頭をもたげてきました。
当サイトが、アスベスト関連情報を求める方に、広い意味での窓口となれればと思っています。 野口泉  

アスベストを取り巻く現状

アスベストは燃えにくく丈夫で安いため、1970年代以降、高度成長期の街づくりに非常に多く使われました。日本ではその危険性が明らかになった後も使用が続けられ、欧米諸国に20年ほど遅れた2006年に全面使用禁止となっています。 そして今、日本の経済成長を下支えしてきた建設業に従事していた方たちの多くや、アスベストを使用していた住宅に住んでいた方たちが中皮腫を発症しています。また、作業着の洗濯をしていた家族が間接的に吸引し発症する例も確認されています。今後も2035年をピークに、さらにその数は増えていくと言われています。 記憶に新しいところでは、今年6月の横浜市営住宅の50代女性の中皮腫発症のニュースがあります。また、2020年のオリンピックに向け古い建物を解体し、新しい街を作ろうという大きな流れの中、建物解体時のアスベスト飛散が問題になっています。そこで危険にさらされるのはまず現場で働く方たちです。彼らの安全はちゃんと保たれているのでしょうか。1999年の文京区さしがや保育園での園舎改修時の園児アスベストばく露事件に見られるように、近隣住民が危険と隣り合わせであるということも明白な事実です。 アスベストの使用がピークであった1975年当時、その危険性を知っている業者も少なからずいました。でも現場では「自分たちだけが防塵マスクを付けられる状況ではなかった」と電気工事士であった父も言っていました。「いつかは自分も病気になるかもしれない」と覚悟していたそうです。 さらに2017年現在、6高裁5地裁で争われているアスベスト裁判があります。2005年のクボタショック以降、アスベスト関連疾患に苦しむ人たちが裁判を起こしています。しかし原告の多くは高齢である為、解決を待たずに亡くなられており、その遺族が意志をついで裁判を進めている現状があります。今秋から来春にかけて、重要な裁判の判決ラッシュを向かえる今、アスベストについての情報を周知し世論を盛り立てていくことが急務です。(首都圏建設アスベスト訴訟 東京高裁判決日10月27日)
アスベストに関しての基本知識はこちら、アスベスト関連のレポートは こちらからご覧ください。
 
 

アスベストってどんなもの?

アスベストは古代エジプト時代から人類に利用されてきた非常に使い勝手の良い便利な鉱物です。日本では石綿(いしわた・せきめん)とも呼ばれており、1950年代から約50年のあいだ、建物のいろいろな所に大量に利用されてきました。

「アスベスト」という呼び名は無機繊維状鉱物の総称で、その中でも鉱物によってクリソタイル(白石綿)、クロシドライト(青石綿)、アモサイト(茶石綿)などに分類されます。

アスベストの便利なところは?

・とても丈夫
・熱に強い
・燃えにくい
・音を遮断する
・値段が安い など

このように、便利な所がたくさんあったので、大量に輸入し、戦後復興期の日本のまちづくりに役立てました。水道を町中に整備したり、住宅、オフィスビルを作ったりして高度経済成長の下地をつくったのです。

アスベストってどんなかたち?

鉱物標本などで見る事ができるアスベストは何千本もの繊維がよりあわさったものであり、私たちの眼にはふわふわした、あるいは針状の細かい繊維のように見えます。しかし空気中にバラバラに飛びだしてしまうと、アスベストの粒子は 0.02 ~ 0.2 μmのとても細かい粉末になってしまいます。これは髪の毛の5000分の1の大きさであり、私達の眼には見えません。
                           

アスベストはどこからきたの?

世界各地にある、アスベスト鉱山から来ました。もともとはこんなかたちの岩石です。→クロシドライト原石
(写真:アスベストセンターより、写真提供INRS)カナダ・南アフリカ・ロシアなどが産地として有名です。採掘されたアスベストは主に船に乗せて世界中に運ばれていきました。港に着いたアスベストはトラックに乗せられて神戸、大阪、埼玉、川崎などの原料加工工場へ運ばれました。そこでさまざまな建材や、布製品に加工されていきました。日本で利用されたアスベストも大半が輸入によるもので、これまでに総計1000万トンに達しています。

アスベスト製品にはどんなものがあるの?

水道管、外壁材、屋根材、各種パイプなどの建築建材、
また布や糸に加工したものは、絶縁体、石綿パッキング、石綿布団、ブレーキライニング、電解隔膜などの原料となりました。(写真:アスベストセンターより)

アスベストの引き起こす病気

鼻や口から吸い込むと、

・悪性中皮腫
・肺がん
・アスベスト肺(石綿肺)

など、重篤な病気を引き起こすことが分かっています。いずれも、アスベストを吸引してから長い年月を経た後に発症する点で共通しています。

・悪性中皮腫
発症までの潜伏期間:40年程度
治療法:外科治療・抗がん剤治療・放射線治療など

 

肺は胸膜という膜につつまれていますが、この膜をおおっているのが「中皮(ちゅうひ)」です。この中皮細胞の“がん化”により生じるのが悪性中皮腫であり、とくに胸膜から発生する悪性胸膜中皮腫はアスベストとの深い因果関係が指摘されています。症状は胸の痛み・背中の痛み・呼吸困難であり、また発熱・咳を伴うこともありますが、一方で症状が無く健康診断で胸に水が溜まっていることを指摘されて病気に気づく場合もあります。

・肺がん
発症までの潜伏期間:30~40年程度
治療法:外科治療、抗がん剤治療、放射線治療

 

アスベストがなぜ肺がんを起こすのか、その詳しいメカニズムはまだ解明されていません。(近年BAP1という遺伝子が関わっているということがわかってきたそうです)しかし、肺に取り込まれたアスベスト繊維の刺激により肺がんが発生するとされています。ばく露量が多いほど肺がんの発生が多く、またアスベストの吸引に加えて喫煙の習慣が肺がんになるリスクを相乗的に高めることが知られています。症状としては咳・痰・血痰・胸の痛みなどがあげられますが、初期症状は自覚しにくく風邪やたばこを理由に見過ごされる場合があります。

・アスベスト肺(石綿肺)
発症までの潜伏期間:15~20年
治療法:咳・痰に対する薬の投与、呼吸不全に対する在宅酸素療法など、対症療法

 

粉塵や微粒子を長期間吸引したために肺の細胞にそれらが蓄積し、肺組織が線維化してしまう「じん肺」という病気のなかで、特にアスベストのばく露を起因としたものをアスベスト肺(石綿肺)といいます。アスベスト粉塵を長期間にわたり吸い込んだ労働者に起こる職業病です。症状は咳・痰・労作時呼吸困難などであり、アスベストのばく露を中止したあとでも徐々に進行します。また、肺がん・中皮腫・気管支炎などを併発することもあり注意が必要です。

悪性が高いアスベストが50年も使われ続けたのはなぜ?

「安くて便利な素材だったから」という理由です。経済的発展を優先しアスベスト使用を後押しした国と企業、作業従事者はその危険性を全く知らされていなかったという過去があります。

アスベスト吸引から発症までに長い時間がかかることを、国や企業は1950年代以前から知っていました。しかし、将来起こるであろう訴訟費用を考慮に入れても利益の方が格段に高かったため、規制することなく使用を続けました。 個人の健康よりも日本という国の経済発展を優先したのです。それを裏付けるかのように、多くの訴訟を抱えながらも近年過去最高額の売り上げを計上している企業もあります。

アスベストは今も使われているの?

日本においては欧米から20年遅れ、2006年に全面使用禁止されました。しかし、
2012年から2016年に渡り、東京・大阪・神戸の税関をアスベスト名目の荷物が通過していたという毎日新聞の報道もあり、今後引き続きの注視が必要です 。

また、アスベスト使用禁止以降も既存の建物に使われたアスベストが今なお存在しています。
建物の老朽化による解体・撤去時に飛散する可能性も多いにあります。

実際に1995年におきた阪神淡路大震災において、がれき撤去作業に従事した方々の発病・労災認定が、震災後22年経った今になって増えてきています。

2011年の東日本大震災後の大気濃度調査においても、アスベスト除去現場における大量飛散が確認されていますが、環境省は「周辺環境への影響はなかったと考えている」と報道発表しています。

2022年のオリンピック開催に向けて、古い建物はどんどん壊され新しい建物に変わって行くことでしょう。その際に飛散するであろうアスベスト粉塵から身を守る方法を知っておく必要があります。

マスクの有用性について

アスベストの繊維は非常に細かいため、花粉症用などの簡易マスクでは効き目がありません。
アスベスト粉じん用マスクには日本の国家検定 DS2、アメリカのN95があります。
これらはホームセンターやインターネットで入手することができます。
マスク装着後、顔の正面からサッカリンスプレーを噴霧し、口中に甘みが感じられなければ、正しく装着出来ているということです。なかなかマスク使用だけではアスベストばく露は防ぎきれませんが、一つの手段としてご紹介します。

中皮腫を発症した有名人

・藤本義一
作家。2011年春に中皮腫を患っていることが分かり余命は1年と宣告される。2012年10月30日死去。満79歳没。阪神淡路大震災の際に粉塵が立ちこめる復興支援活動に奔走。長期間にわたりアスベストを吸い込む環境にいたことが原因と見られている。年齢ゆえの身体の負担を考えて、外科手術や抗がん剤治療を希望しなかった。

・ポール・グリーソン 
「ダイ・ハード」や「ジョニー・ビー・グッド」で知られるアメリカの俳優。
2006年5月27日、石綿による中皮腫が原因でカリフォルニアの病院で死去。満67歳没。
10代の頃にアルバ イトで携わった建設作業でアスベストに被曝したと証言している。中皮腫サバイバーの一人。(中皮腫と戦いながら長生きしている人のこと。)

・スティーヴ・マックイーン
アメリカを代表する映画スター。1979年、精密検査により胸膜中皮腫と診断される。医師から原因はアスベスト、余命3ヶ月と告げられた。アメリカの医師からは心臓が手術に耐えられないと警告を受けたがメキシコにて多数の転移性腫瘍を除去する手術を受けた。しかし手術から12時間後、1980年11月7日、心肺停止。満50歳没。アスベスト被爆の可能性として海兵隊時代(当時の船の機関室にはアスベストが使用されていた)、車・バイクレースの経験(マスクや耐火服にアスベストが使われる)が原因と考えられる。
死の5日前の録音テープには次のように残されていた。
「もう一度、生き直したい。そして他の人々の人生も変えることができればと思う。私に何が起きたかを皆に話していきたいのだ」

アスベスト関連疾患、労災申請などについて詳しいサイト

中皮腫・じん肺・アスベスト センター  http://www.asbestos-center.jp/
アスベスト被害の相談ホットライン 03-5627-6007 午前10時から午後5時まで

独立行政法人環境再生保全機構  https://www.erca.go.jp/asbestos/

尼崎労働者安全センター http://www7b.biglobe.ne.jp/~amasafe/html/index.html

首都圏建設アスベスト訴訟統一本部 http://shutoken.kensetu-asbestos.jp/

©こうもりクラブ koomori.club